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最悪の仕事

 きのうはものすごい仕事をした。

 このものすごさは、事情があってあんまりはっきり書けない。書けないんだったら書かなきゃいいのだが、ここは私自身が後日読んで「そんなこともあったっけ」と振り返るための日記なので、書いておくことにする。

 先週、知人から電話があり、知り合いの会社関係の忘年会の司会をしてくれと頼まれた。その知人にはこのところ、いろんな行き違いから失礼をしていたので、お詫びの意味もあって引き受けた。事前に詳細は知らされず、そのパーティーの関係者に開始時間だけを聞いた。

 行ってみたら、ただの忘年会じゃなかった。とある企業(何の会社か知らないが)の女性の会長の誕生会を兼ねていて、やってくる人数もものすごいし、やってきた人たちも、政界だったり財界だったり芸能界だったり、著名な方が多かった。

 それほど大きなパーティーなのに、行ってみたら何の段取りもできていなかった。大体にして、司会が私の他に2人いる。ベテランの芸人さんと、元芸能人の人。

 どうやら私は壇の下で進行をして、他の2人は盛り上げ役、ということらしかったが、その進行台本が出来上がったのが本番直前で、しかも途中まで。あとはよくわからないままに時間が来てしまった。スピーチをお願いする順番も何も決まっていない。

 時間になったので司会席に行ったのだが、信じられないことに、私の周りにはスタッフが誰もいなかった。いつ、どうやって始めたらいいのか、ご挨拶をしていただく人は到着しているのか、全くわからない。
 困ったな、と思っていたら、誰かが始めるよう合図をしたらしく、他の司会の方がパーティーが始まるという旨を伝え「では今泉さんよろしくお願いします」と私に振ってきた。

 始まったのだから始めた。台本通りに進め、乾杯の挨拶、というところで、とても偉い肩書きの方をご紹介したら、なんとその方はまだ会場に着いていなかった。

 あとは思い出すと腹が立つので書かないが、最初から最後まで全部こんな調子であった。途中でスタッフの人に「お願いですからここから動かないでください」と言って、その人の指示を仰ぐようにしたのだが、それがまたいちいち会長のやりたいこととは違って、会長が飛んでくるということの繰り返しであった。
 会長だけならともかく、いろんな人がいろんなことを言い、しかも言われていることが意味不明であった。例えば、どこの誰だかわからない人の名前だけを突然言われて、その人に何をしてもらうかも言われない状態では、何をどう進行したらいいのかまったく見当がつかない。

 「船頭多くして船山へ登る」ということわざを思い出した。たとえ山でも、まだ登っているだけマシだと思った。今はどんどん谷底へ落ちていく感じだ。

 しまいには会長に「あなたちゃんとやるのよ!」と言われたが、それはこっちのセリフであった。大体にして、会を引っ掻き回しているのは会長であった。会長がやりたいことが、下の人にちゃんと伝わっていないからこうなるのだ。だが、その会長の誕生会なのだから誰も何も言えない。

 私にも、何がどうなるのか最後までわからないまま、パーティーは終了した。というか、誰かが出てくるたびに会長がマイクを握って喋り出すので収拾がつかず、私がお開きだと宣言した。ずいぶん押していたし。
 終わったあと、会長に挨拶を、と言われたので会長のところまで行き「お疲れ様でした」と言った。会長には「あぁ、はい」と、どうでもいい応対をされた。それは本当に、あなたなんか別にどうでもいい、という態度であった。

 もらったギャラを床に叩きつけて帰ろうかと一瞬本気で思った。「このクソババア」という言葉も浮かんだ。でも我慢した。こんなところでケンカをしても自分の恥だし、一応この人だってきょうは誕生日なんだし。向こうは私のことを下手なアナウンサーだと思っているだろうが、私もクソババアだと思い、そして二度と会わなければいいのだ。

 いろんな人が集まっていたから、会長にも人望はあるのだと思う。でも私にとってはクソババアだ。人との出会いは残念ながらそういうものだ。

 小学校の頃から、学級会などを含めて、司会というものは多々やってきているのだ。それでも、こんなにひどいものは一度たりとも無かった。学級会ですら。しかしきのうは、私にできることを全部やっても到底無理であった。そんな状態でヘタだと思われたのなら、私にだってクソババアぐらい言う権利はある。

 面と向かって言わなかったのは「バタバタするから」と事前にギャラをいただいてしまったからだが、さっきも書いたように、ギャラを叩き返してきた方がどれほどすっきりすることか。でも私には「二度とやらない」という選択肢がある。だから「もらったギャラで飲んでやれ」というような発散の仕方もできる。会場の人の印象に「ダメなアナウンサー」だけじゃなく「常識の無いアナウンサー」を自ら加える必要は無い。

 世の中には、このようなパーティーがあちこちであるのだろう。今までそれに出会わないできたのは幸運だったのかもしれない。
 唯一の救いは、一緒に司会をした芸人さんであった。いろんな経験をしてきたんだな、というのがわかる進行で、終わったあと「本当にお疲れ様」と握手をしてくれた。その方がいなかったら私は発狂していたかもしれない。

 人間、なんだって一度は勉強になる。その一度が本当にイヤだったら、二度も三度も繰り返さないことだ。それが学習。

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