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2つの関門

 バレエの発表会が終わった。無事終わったという思いもあり、やっと終わったという思いもあり。

 舞台に上がるまでに、私には2つの大きな関門があった。そしてそれは、どうしてもくぐりぬけなければならないものであった。

 前日のゲネで、私は初めて自分の衣装を把握した。いや、なんとなくわかってはいたのだが、本番まで考えないようにしていたという方が正しい。私にやってきた第一の関門は、白いタイツと股間問題だ。

 タイツというか、上半身まで繋がっているもので、肌が透けるので肌色のサポーターも履く。自分のそういう姿を見るのは結構衝撃的で、自分でもちょっとひいてしまった。

 だが、バレエを見慣れている人にはどうってこと無い格好らしく、女子チームの皆さんには「今泉さん痩せてるからきれいだねー」とか「似合ってるねー」と言われた。普段の私なら調子に乗るところだが、なかなか前向きな気分にならなかった。

 第一部では男3人で、チュチュと羽根の髪飾りをつけて「4羽の白鳥」を踊ることになっていた。この格好もどうかと思うが、チュチュのおかげで股間は隠れる。でも、くるみ割り人形の2幕は股間が思い切り出る。うーん。

 結局、ゲネでゲストの男性ダンサーの方が堂々と白いタイツを履いて踊っているのを見て、こんなことで暗い気持ちでいるよりも踊りのことを考えよう、という気になった。これから毎日この格好で生きていくわけじゃないし。

 というわけで晴れ晴れとした気持ちで本番を迎えるはずだったが、午前4時前に金属がぶつかりあう音で目が覚めた。あまりにうるさいので窓の外を見ると、こないだまでマンションの外壁の塗装工事のために組んであった足場のパイプを運び出しているところであった。

 そんなこと金曜の深夜にやるか普通。ましてやこんな大事な日に。私は窓を開け「うるさいんですけど! 今何時だと思ってるんですか!」と怒鳴った。以降、少し音は小さくはなったが、金属がぶつかる音がするのに変わりはない。

 そうでなくてもやっと3時過ぎにベッドに入ったのに、頭にきて眠れない。仕方が無いのでビールを飲んで無理矢理寝たのだが、7時には起きなければならなかったので実質2時間弱しか寝られなかった。

 腹立たしい気持ちで起き、でもこんな気持ちではいけないと自分を奮い立たせて会場に向かった。そこで2つめの関門が待っていた。

 バレエのメイクはすごい、というのを聞いたことがあったような気はする。でも自分には関係の無いことだったのでどうでもよかった。しかしそれが自分の顔で行われるとなると話は別だ。

 基本は舞台で映えるメイクということで、顔のパーツは全て大きくする。女性であれば長いつけまつ毛、太いアイラインは上下に、鼻にはシャドウを入れる、みたいなこと。

 メイクはバレエの先生にやっていただいたのだが、私はもともと鼻が高いので、何かするたびに「やりすぎかしら」という状態になった。結局、男性ダンサーの方に助けを求めてやっていただいた。
 メイクをされているときは自分の顔は見えないのだが、先にメイクを終えた女子チームの皆さんが「あらー王子様顔」「似合うわー」と口では言いつつ笑いながら写真を撮っていた。いったい私の顔はどうなっているのか。

 終わって鏡を見たら、とんでもないことになっていた。目の上に黒いアイライン、下にもアイライン、茶色いアイシャドウ。いったい誰だろう、というような顔だ。

 鏡を見るたびに複雑な気持ちになるので、鏡を見ないようにして過ごすことにした。きょうはこの顔で踊ると決まっているんだから仕方が無いと腹をくくったのだ。
 アナウンサーであることがバレエに役に立ったことは別に無いのだが、何があってもやらなきゃいけない、という時の腹のくくり方は役に立ったかもしれない。

 こうして2つの関門をなんとかくぐりぬけ、本番にたどりつけるかと思った矢先、とんでもない事件が発生したのであった。それはまた今度。

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