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明日の記憶

 先日、横浜で早めにロケが終わった。どうしようかと考えて「明日の記憶」を観ることにした。

 歳を重ねるにつれて増えるものはある。経験とか、人脈とか、白髪とか。でも減っていくものが確実にあるんだなというのが、三十代後半になると段々とわかってくる。まず体力が落ちる。酒が弱くなる。人の名前が出てこなくなる。今のところはまだそのぐらいだが、これからもっともっと減っていく。

 人は誰だって歳をとるし、それにつれて確実にいろんなものが減っていく。それはゆっくりと、いろんなところが徐々に減っていくのが普通だけれど、体力はあるし気力もあるのに、記憶だけが減っていくのが、この映画の主人公だ。

 渡辺謙さんは、白血病の治療のために受けた輸血で、C型肝炎に感染したと公表した。何がどうとは言わないが私も同じような経験がある。ある病気のために受けた治療の後遺症が、ずいぶん後になって出た。ずいぶん後だったので最初は関連がわからなかった。わかったとき、かなり複雑な思いだったが、治療を受けた頃は将来後遺症が出るとはわからなかったし、わかっていたとしても治療は避けられなかった。そしてその治療のおかげで今こうして生きている。

 今は元気だからいい。でも、この後遺症が将来私の体にどう作用するのかはわからない。おそらく影響はあるだろうと考えているが、ひょっとしたら何事も無いかもしれない。そんなことは、将来にならないとわからないのだ。とにかく、これから先に起こるかもしれないことを今考えて不安になっても仕方が無い。今は元気で生きているんだから、今のことを考えるしかないと思っている。

 渡辺さんは会見で「病気を通して自分が生きていることにうれしくなったし、感謝できるようになった」と語ったそうだ。渡辺さんの思いと私の思いは違うだろうが、私が自分の気持ちを言葉にしたらほぼこんな感じだ。

 この気持ちは、ずっと前からなんとなく持っていたのだけれど、大切な友人が病気になったことで、心の底から湧いてきた。友達の病気はとても複雑な思いだけれど、こういう気持ちになれたことには感謝している。そして友達が生きていてくれることにも。

 映画を観て、老いることや衰えること、忘れていくことが怖くなる人がいるかもしれない。ちょうど、映画を観たあとに立ち寄った書店でこんな本を見つけた。

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「老人介護 常識の誤り」 三好春樹  新潮文庫

 とても面白い本であった。老人介護の本を面白いというのはどうかと思う人もいるかもしれないが、現在の介護の問題点と解決策が、とても読みやすく、わかりやすく書かれている。
 誰の親だって、もちろん自分だって老いるのだから、介護する、される立場になることは想定しておいた方がいい。私はこの本を読んで、改めて「生きてりゃいいんだ」という気持ちになった。そしてこれは、映画の中で大滝秀治さんが言う台詞でもある。きっと、渡辺さんの中で、これはとても大事な台詞なのだろう。

 渡辺謙さんがいいのはもちろんなのだが、大滝さんの演技がすばらしかった。わざわざ「泣けます」などと言うつもりはないし、泣かせるための映画ではないが、手元にティッシュを持っておいて正解だった。皆さんもぜひ。

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