マジックと経験
「世界仰天ニュース」で前田知洋さんのクロースアップマジックを見た。何度も見ているが何度見てもすごいなぁ。
実は青森に帰ったとき、一日だけ高校の先輩がやっている「フラッシュゴードン」というバーに飲みに行った。その日はたまたま、先輩の弟さんがお店でマジックを披露する日だったので、目の前でマジックを見せてもらった。
弟さんは9歳からマジックの練習を始めたそうで、今は玄人はだしというか、本人が本気でマジックで食べていこうと思っていないだけというレベルであった。私の手の中で、トランプの束がアクリルの板に変わったりしたし、やることなすこと全然わからなかった。
私は月に1回、子供向けの「チャレンジ教室」という番組をやっている。子供はマジックが大好きなので、マジックを取り上げることが多い。それで マジシャンの方に何度もお会いしているのだが、教わったのは、マジックには必ずタネがあり、それを決して明かしてはいけないのがマジシャンだ、ということであった。
私達はタネを見破ろうとしてマジックを見るが、見破られるようなマジックをやる時点でプロではない。そのことがわかって以来、私はマジックを「わーすごいなー」とか「不思議だねー」という素直な気持ちで見るようになった。
もし、マジックのタネが知りたかったら、本気でマジックをやるしかない。やってみてわかるタネもあるわけだが、そのタネを人にばらしたら、せっかく覚えたマジックがやれなくなるし、他のマジシャンにも迷惑をかける。というわけで、タネは決して人に教えてはいけなくなるわけだ。
先輩の弟さんのマジックは、今考えてもレベルが高かった。それを青森のバーで見られるなんてすごいことなのだが、その時は酔っぱらっていたので「マジックはいいけど盛り上げ方が足りないね」とか偉そうにアドバイスをした気がする。それは本当にそうで、やれるマジックをひたすらに見せられるだけだと「へー」で終わってしまう。
前田さんのマジックは、なんというか、緩急がありストーリーがある。これってこうなるんでしょ、の裏をかいていくし、敢えて自分を追い込み、追い込まれてもできるんでしょ、というこっちの想像を超えたマジックを見せるのが素晴らしい。
自分がやりたいことを頑張ってやって、そのことで他の人を喜ばせたり驚かせたりできたら素晴らしいと思う。でも、どんなジャンルであっても、そこにいくには並以上の努力が必要だというのがこの歳になるとわかる。
今からそこに行けないのだとしたら、疑ったり文句を言ったりせず(問題があるのなら行かないという選択肢もあるのだから)その人の努力の成果を楽しむ方が、ずっとラクで楽しいという気がする。
私の今の仕事だって、なんだかんだで15年続けているからなんとかなっているわけだ。これから別の仕事をやって、一人前になろうと思ったら、同じだけの時間がかかるであろうことは想像がつく。でも、それだけの時間をかけてもやりたいと思ったらやればいい。私だってやるかもしれないし。
話は変わるのだけれど、このごろは地方局に行ったアナウンサー(ほとんど女性だけれど)が2年ぐらいで辞めて東京に出てくる。それぞれに事情があるし、本人の人生だからなんとも言えないのだけれど、一緒に仕事をしてみて「あぁ、経験が足りないなぁ」と思うことがある。ぶっちゃけて言うと、フリーでやるほど上手くないのだ。
私は6年9か月で局アナを辞めた。その経験でフリーでやっていけるかどうか不安はあったが、フリーになってから増えたのは主に経験であって、技術という面では局にいたときにやったことが今でも基本になっていると思う。
フリーになってから技術を磨くなんていう余裕は無い、というかフリーなんだからできて当たり前で、育ててもらおうなんていう場所ではない。そのことがわからないまま辞めて出てきている人が多いような気がする。
何が言いたいかというと、なんにせよ時間がかかるということだ。昔の自分を思い起こすと、確かに2年目ぐらいまで辞めたいと思っていたけれど、2年目で辞めていたら何にもできなかった。腹をくくって仕事を頑張ったのが3年目で、そこから自分の力量もついたし周りの評価も上がっていった。2年で辞めるのはもったいないというのが今だからわかる。
経験を積むって大事だな。私なんて学歴も無いし、ひたすら経験の積み重ねだけで生きてきたけれど、経験するということが好きだったからやってこられた気がする。経験って、なんにせよ無いよりあった方が面白いと思う。いやなことも辛いことも経験。
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