冬季国体を見に行った
学生時代から就職の相談に乗っていて、今は制作会社でADをやっているTくんに「国体のフィギュアスケート見に行きませんか」と誘われた。Tくんは番組の取材を通して、京都の醍醐クラブの先生や選手と知り合い、このところ国内の試合を見に行っているのだそうだ。
その時点では誰が出るのか知らなかったし、予定が空くかどうかもわからなかったので「お互い空いたら行こうかね」ぐらいのつもりにしていた。しかし国体には大阪代表で織田信成くんがエントリーしたため、注目の大会になってしまった。もちろん私も行くことにした。
行こうと決めてから、改めて前橋への行き方を調べたら、思っていたより遠かった。新幹線を使って高崎で乗り換えて2時間ちょっとかかるのだが、在来線で行っても2時間半ぐらいだからあまり変わらない。
国体は入場無料で全席自由だから、座って見たければ早めに行くしかないのだが、そのためには結構早起きしなければならない。
休みの日まで早起きって面倒だなーと思ったので、ビジネスホテルをとって前日入りすることにした。夕方に新宿を出る「ウィークエンドあかぎ」という特急に乗ると、乗り換え無しで前橋まで2時間以内で行けるのもラクだし。
というわけで前橋にいった。行きの車内で、デパ地下で買った「うにいくら丼」を食べ、ホテルに着いたら近くの日帰り温泉に行き(入場券付きのプランだったので)ビールを飲んで帰って寝た。
群馬国体のホームページでは9時半から少年男子ショートプログラム、ということになっていたが、会場に行ってみたら10時半からであった。場内はもちろんガラガラで、私は「お金をとるとしたらS席だろう」といういい席を確保した。リンクでは成年男子の公式練習が行われていた。織田選手のほかにも、成年男子には南里康晴選手や神崎範之選手、柴田嶺選手など日本のトップクラスが出場していて、見に来てよかったなーと思った。
場内はガラガラなのに、私の周囲だけやたらと声援が大きい。最初は選手の家族かと思ったらそうではなく、熱心なスケートファン、というかスケートおたくの女性たちであった。後ろも隣もスケートおたく。確かに、こんな早い時間から会場にいるのは選手か関係者か家族かおたく。
スケートおたくの皆さんは凄かった。出場する全ての選手に分け隔てなく声援を送り、ガンバと声をかけ、フォーと叫び、演技と演技の間は選手のあんな話やこんな話を喋り続けているのでうるさい(笑)。
結局少年男子ショートと、成年女子と男子のフリーを全部見たので、24×3で72人の演技を見たことになる。さまざまなレベルの演技をこんなにたくさん見たのは初めてだったが、思ったよりも飽きなかった。我ながら、スケートが好きなんだなーと思った。まぁおたくのみなさんの情熱には遠く及ばないが。
成年女子フリーが始まると、場内は立ち見が出るほどの混雑となった。男子の試合は夜なので、みんな夜まで立ったまま見るのかと思ったら、女子が終わったところで立っている人がみんな帰っていった。それでも席はほとんど埋まっていたので、織田くんの人気はすごいなぁと改めて思った。
しかし、男子の試合が進むにつれてまた人が増え、しまいには通路や階段にまで人がいるという超満員状態になった。最終グループの6分間練習のときには、選手がジャンプを跳ぶたびに場内大歓声、というまるで全日本選手権のような雰囲気であった。国体の、しかも男子の試合でこんなことは今まで無かったんじゃないだろうか。とにかく異様な熱気。
そんな中、まず南里選手が3アクセル+3トゥループを決め、すばらしい演技を披露した。続く織田選手は、今シーズン試合では跳んでいない3アクセル+3トゥループ+3ループを決めた。後半の3アクセルはステップアウトしたが場内大盛り上がり。
織田選手の演技が終わったところで、一部の観客がぞろぞろと帰り出した。でも半分ぐらい帰るんじゃないかと思ったのに2割ぐらいだったのでかえって意外だった。そして帰らなくて正解であった。場内がざわつく中で始まった柴田選手の演技がすばらしかったのだ。最初の3ルッツ+3トゥループを決めると、プログラムの中のトリプルを全て降りた。私の周りのスケートおたくの皆さんは大興奮でスタンディングオベーションだ。柴田選手のこんなに完璧な演技は初めて見た。
神崎選手の全日本選手権の演技は素晴らしかったが、きょうの演技の前半はそれ以上だった。2回の3アクセルの着氷は完璧で、いい表情でとても丁寧に滑っていた。あまりに丁寧に滑ったので後半ちょっとバテてしまったが、最後までいい演技であった。最終滑走は大上選手だったが、朝の練習でも試合前の練習でもあまり決まっていなかった3アクセルをものすごい高さで跳び、後ろに3トゥループをつけた。演技中盤の3アクセルも決め、ノーミスでフィニッシュ。本人も感激して涙ぐむほどの内容であった。とてもいい試合だったのだ。
国体は6点満点の旧ルールで行われるので、選手は秒数や回転数を気にせずのびのびと滑っていたように見えた。試合もお祭りのようなもので雰囲気が温かい。
もうひとつ面白いことがあった。千葉県の中川選手が、名前がコールされたあと、リンクサイドで立って見ている、試合が終わった他の選手と次々に手を叩き始めた。それが一人や二人じゃなかったのでなんだろうと思って見ていたら、リンクの真ん中に立った中川選手は滑る前から涙ぐんでいた。これが現役最後の演技なのだ。
ジャンプが決まると大歓声、失敗しても「頑張れー」の大声援で、演技を終えた中川選手は氷にひざまづいて感極まっていた。観客は温かい拍手を送り、リンクサイドからは(観客ではなく仲間から)花束やぬいぐるみなどが投げ込まれ、最後に中川選手が氷にキスをしたところで場内大爆笑。
全日本も世界選手権もチケットが取れず悔しい思いをしたが、こんなに楽しい試合を生で見られて楽しかった。前橋は遠かったけど行って良かった。
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