子供の生活力が落ちている
もう何年も「こども放送局」の仕事をしている。この番組のいいところは、出演する子供たちが劇団の子ではなく普通の子で、当日は立ったり座ったりという段取りのリハーサル以外は何もやらないところだ。
生放送なので、きれいに番組を終えたかったら、子供を含めたリハーサルをしたらいいのだけれど、番組のポリシーとして「生の子供の反応が一番大事」というのがあるので、それは絶対にやらない。私もそこが好きでこの仕事を続けさせてもらっている。
とはいえ、子供だから本番で何をやりだすかはわからない。大人の頭で考えたことを超えた間違いをしたりする。子供に罪は無い。これぐらいの説明でわかるだろう、と考えたこちらの頭が固かっただけだ。
間違っている子供がいたら、その子のところまで立って歩いていき「いま○○くんはこうやっちゃったけど、こうすればうまくいくよね」と一緒に修正する。スタジオの4人の子供のうち1人が間違えたとしたら、全国でこの番組を見ている子供の10人ぐらいは間違えるかもしれないからだ。
その分時間がかかるが、放送時間は限られている。今使った時間をどこで取り返すかを、生放送をやりながらものすごく考えるので、仕事中は頭が回りっぱなしになる。毎回終わると「はぁーっ」とため息が出るけれど、楽しいか楽しくないかと聞かれたらものすごく楽しい。
ただ、ここ何年か、子供が不器用になっていくのが気になっていた。想像していなかったところに時間がかかるのだ。はさみで切る、紙を折る、ひもを結ぶ、といったこと。
最初は個人差かと思っていたが、ここ数年で個人差の域をとっくに超えていることがよくわかった。早い子は稀にいるが全般的に遅い。遅いというよりもやり方がわかっていない。つまりやったことがあまり無いのだ。
今回は「シャーペンの芯で電球を作る」という内容であった。途中、コルクにゼムクリップを刺すところがあり、コルクが固くて刺さらない場合はキリで少し穴をあけましょう、と説明した。
小学4年と5年の男女2人ずつだったのだが、4人ともキリの使い方を知らなかった。持ち方も違うし、キリを回すということを知らなかった。
私は隣にいた女の子の後ろに行き「○○ちゃん、キリはね、立てて使うんだよ」と言いながら、正しいキリの使い方を教えた。結果的にここでかなりの時間を使ってしまい、予定していた実験を2つカットした。
他にも、エナメル線の端を削って目玉クリップに繋げる、というところで、エナメル線は削ってあったけれど、括りつけたところが削っていない部分だったりした。エナメル線を削ることは理科の授業で知っているけれど、何のために削っているのかがわかっていない様子だった。削れと言われたから削っているだけ。
家庭でも学校でも、はさみを使ったり紙やすりで何かを削ったり擦ったり、キリで穴をあけたりする機会が無くなっている。一方で、毎回子供たちに「何か習い事してる?」と尋ねると「塾とピアノとスイミング」なんていう答えが普通に返ってくる。公立の小学校の子供でこういう状態だ。
はさみやキリなど使わなくても困らないし、そんなことをやっている時間は子供には無い。
番組の後反省会をやるのだが、今回あらためて「子供の生活力が落ちている」という話になった。不器用になっているのではなく、地味だけれど大切な生活の経験が無くなっている。
私は子供がいないので偉そうなことは言えないのだけれど、もし小学生の子供がいる方がここを読んでいたら、一度子供に「コンパスで円を書いてはさみで切り抜く」「1センチのコルク(もしくは木)の半分ぐらいまで穴をあける」「紙飛行機を折る」といったことを、事前にいっさい教えずにやらせてみてはどうだろう。おそらく、あまりにできないので驚くと思う。
紙飛行機は女の子だったら折れなくてもいいじゃないかと思われるかもしれない。でも、紙を定規を使わず半分に折る、というのが紙飛行機の基本なので、これができないと大人になってから事務作業に困るはず。
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