八戸のえんぶり
「YAJIKITA ON THE ROAD」の取材で青森県八戸市にやってきた。「えんぶり」というお祭りの取材だ。
この番組では去年の夏、青森県黒石市の「黒石よされ」というお祭りに行った。青森県出身だから名前は知っていたがどんな祭りかは知らなかった。参加してみて、なんていいお祭りなんだろうと思ったものであった。
「えんぶり」も同じ。名前は知っていたがどんな祭りかは全然知らないまま行った。一応資料は読んだのだが、特にお祭りは、とにかく行ってみなければなんにもわからない。
大体にして、八戸に行くこと自体二度目であった。一度目は小学校の遠足。覚えていることといえば、ウミネコの繁殖地として知られる蕪島というところで、島に入るなりウミネコにふんをひっかけられたことぐらいだ。
私はいつも飛行機で青森に帰っているので、東北新幹線の終点まで乗るのも初めて。東京からほぼ3時間だから、東海道・山陽新幹線なら岡山ぐらいか。3時間で八戸に行けるというのは昔から比べたら夢のようなことなのだが、日頃3時間も電車に乗らないから結構疲れた。
「えんぶり」というのは豊作祈願の行事。太夫と呼ばれる、烏帽子を被った男性の踊りを筆頭に、祝舞や子供たちの舞が披露される。地域の大人から子供までが、踊り手になったりお囃子を担当する。この集団を「えんぶり組」といい、現在八戸市やその周辺には30以上の組がある。
えんぶりでは、舞うことを「擦る」という。そもそもえんぶりという名前は、田植えの前に土をならすために使う「えぶり」という農機具からきている。舞の動きにも田植えの所作が入っていて、見ていて面白い。
全国的に、祭りに参加する子供が少なくなっているが、このえんぶりでは子供たちをたくさん見かけた。どの組でも、子供たちが衣装を着て、数々の祝舞を一所懸命に披露していた。祭りの期間中、えんぶり組は市内を回り、家や商店で舞を披露してご祝儀をもらう(門付けという)。だから、大人も子供も朝から晩までひたすら舞っているし、市内のあちらこちらからお囃子が聞こえてくる。
市役所前の広場での取材を終え、ひょっとしたらえんぶり組がいるかも、と思って繁華街の屋台村に行ってみたら「さっきまでいたのに」ということであった。まぁ明日も撮影はできるので、そこで取材を終え、食事がてらお店に入ってビールで乾杯した。
しばらく飲んでいたら、えんぶりのお囃子が聞こえてきた。飲食店の中には、地元のえんぶり組に時間を指定して来てもらうところが多いそうで、隣の店にやってきたのだ。
家を回るのは夜8時までと決められているそうだが、本当にその時間まではえんぶり組が市内を回っている。狭い路地だったので、私はかぶりつきで男の子の大黒舞を見た。朝から踊り続けているのに全然手を抜いていなくて、その様子を同じ組の大人たちや飲み屋のお客さんたちが温かく見つめていて、あぁ、これって地域の祭りの原点だよなぁと思った。
八戸にこの祭りが残っているのは、もちろん残そうと努力しているたくさんの人の力があるのだけれど、一番は人々の豊作を願う思いの強さだそうだ。
青森県の太平洋側、南部地方には、夏でも海からの冷たい風が吹く(やませ、という)。この風のせいで稲は実らず、飢饉もたびたびあった。
やませについては小学校のときに社会科の授業で習った。毎年のようにテレビのニュースで、作物の冷害が報じられている。豊作を願う気持ちは昔も今も切実なのだ。
こう書くと厳しくてつらい祭りのようだけれど、だからこそ人々は、明るいお囃子で祝舞を披露する。見ていて飽きなかったし気持ちが温かくなった。
黒石よされのときにも思ったけれど、出身県だからこそ、こういう取材が無かったらおそらく一生行くことは無かっただろう。そして出身県だからこそ、知ることができて良かったと思うのだ。
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