実況いろいろ
改めて放送された世界フィギュアを見たら、実況はそれほど気にならなかった。現場で見ていてまだ覚えているから、確認の気持ちで見られるのだと思う。
あのアナウンサーの実況に抗議をするような内容のバナーが会場に張られたとメールで教えてくれた人がいた。というか「見ましたか?」という質問だったのだが、私は気付かなかった。自分が座っている側に張られたら見えないからそうだったのかもしれない。ちなみにバナーというのは、選手を応援するための垂れ幕。
Jリーグの試合で、ファンが監督やフロントに抗議する内容のプラカードを掲げているのは見たことがあるが、スケートで実況アナのバナー、それも応援ではなく抗議のバナーが張られるなんて聞いたことが無い。
わざわざそんなものを作り、会場に掲げるのはずいぶんと勇気が要っただろう。ただ私は同業者なので、その話を聞いたときになんだか胸が痛くなった。自分の身にそんなことが起こったらたまらないなぁと。
地上波の放送を見て改めて、会場内実況はとてもよかったと思った。アイスダンスはやったことが無いので細かいところがよくわからないのだが(シングルのスケーターはダンスのことはほとんど知らない。履いている靴も違うし)東野さんというジャッジをしている女性の解説がわかりやすくて助かった。この方がよかったのは、オリジナルダンスの最終グループの前の練習のとき「もうこの後はそれぞれの組が芸術の域に達していますから、ほとんどしゃべれなくなることをあらかじめお詫びしておきます」と言って、実際ほとんどしゃべらなかったことだ。
それまでの組で、オリジナルダンスの必須要素についてはちゃんと説明されていたし、確かに最終組はそれまでの組とは滑りが違って、同じタンゴでも個性があった。ただ見ているだけで十分に素晴らしかった。
場内実況のアナウンサーはどんな方なのか知らないのだが、自分がスケートについて詳しくない、という謙虚さがあり、演技中余計なことは喋らなかった。詳しくないなら喋らなきゃいい、と以前書いたことがあるが、やっぱりそれでいいんだと思った。
その分質問がとても正直で時々面白かった。女子のフリーでエミリー・ヒューズの演技が終わったあと、伊藤さんや本田武史さんがジャンプについて解説をしたのだが、実況アナが「ジャンプ以外の面はどうだったんでしょうか?」と聞いたら2人とも「いやーはははは」と笑ってごまかしたので思わず笑ってしまった。確かにエミリーについては他のところは解説するのが微妙。
余談だが、エミリーの演技を再生しながら、ジャンプを降りるたびに「どうよ!」「アタシどうよ!」と言うとすごく合う。毎回そう言っているような顔をしているのだ。暇だったらやってみていただきたい。暇だったらでいいけど。
他にも、天野真さんのテクニカルスペシャリストの立場からの解説はわかりやすかった。スピンやステップのレベルは、難しい動き、あるいは特徴のある動きが何種類入っているかで決まるが、実際の演技でひとつひとつ説明してもらうのが一番わかりやすい。例えばジャンプしてスピンに入る(難しい入り方)、チェンジエッジ、難しい姿勢のバリエーションが2つ(しゃがんだ姿勢で横を向いたり、頭を足にくっつけたり)、といった具合にレベルが上がっていく。スケートをやったことの無い人にこれを説明するのはとても難しいが、たくさんの人数を説明つきで見ていたらなんとなくわかるのではないだろうか。
伊藤みどりさんはジャンプの話、とりわけトリプルアクセルの話になると明らかにメートルが上がるのが面白かった。スケート連盟の殿堂入りの表彰のとき、その理由が日本語と英語でアナウンスされた。「ISUの大会で女子として初めてトリプルトリプルのコンビネーションを成功させ、トリプルアクセルも成功させた。その技術は20年経った今でも女子のスタンダードなものである」というような内容だったが、そう言われてみると確かにものすごいことだ。
時々場内アナウンスで場内実況の紹介があり、スクリーンに実況席が映るのだが、FMラジオで聞いている人がみんな「みどりちゃーん」と手を振っていた。その様子を見ていた、周囲にいる各国の実況ブースの人や、外国からの観客もニコニコと笑っていた。ミドリ・イトーは今でも世界中のファンや関係者から愛されている。
さて地上波の実況はどうだったか。あの方は今回、演技中は黙っていたからバナーを見たのかもしれない。でも演技前や演技後に言っていることは相変わらず意味がわからなかった。キミー・マイズナーの演技の前に「本当の名はキンバリー・マイズナー」と言ったときには、あまりの意味の無さについ笑ってしまった。生で見ていて結果も知っているから笑えるが、そうでなかったらたぶん腹が立っただろう。
地上波のアイスダンスの実況をしたアナは、たぶんニッポン放送から移籍した方ではないだろうか。喋り方がいかにもラジオの野球実況のようだった。ラジオでスケートの実況なんてあり得ないので勝手がわからなかったと思うが、フィギュアスケートには必ず音楽があり、音楽を殺すような声のトーンや喋り方をしてはいけないことがわかってくれたらと思った。アイスダンスだから余計、いかにもの実況口調がジャマに感じた。言っている内容は悪くはないのだけれど、曲の雰囲気に合っていないのだ。
みずえさんの家で見たJSPORTSの放送で実況をしていた小林さんという女性の方は、演技のジャマにならないというのをちゃんと考えていると思う。ちゃんとした知識、そして何よりスケートに愛がある。スケートが好きな人ならきっと小林さんの実況は好きだろう。
丁寧な解説って、地上波じゃないからできることなんだけれど、場内よりもCSよりもよくない地上波ってなんだか寂しい。一番お金をかけて、ゲストもたくさん呼んで、結果的には情報が足りないってのも。でもこれからはそういうものなのかもしれない。チャンネルが増えたのだから、一般向けの放送と、ファン向けの放送に分かれていく流れが自然というか。
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