« ただひとりあの人だけが | トップページ | キャンベル »

とてもいい結果

 試合が始まるまで何度ため息をついたことだろうか。結果がどうなってもすべてこれからに繋がる、と自分に言い聞かせてはみても、やっぱり真央ちゃんにも美姫ちゃんにも頑張って欲しいし、どちらかに優勝して欲しいというのが本音であった。

 きょうのチケットは一番先に無くなり、当日券の販売も無かった。それを生で観られたのはとても幸せなことだったが、これまでの試合に比べてゆるい感じのお客さんが多かったし、男性や小さな子供の割合が多かった。スケートが好きというのではなく、真央ちゃんや美姫ちゃんが好き、という人が多いということだが、日本にそういうスケート選手が2人もいるなんて幸せなことだ。もちろん中野さんが好き、という人もいたと思う。

 中野さんは6分間練習でトリプルアクセルを2度降りた。2回目は回転不足に見えたが、やる気満々なのが見ていてわかった。演技前、前の選手の得点がコールされる間も、ずっとアクセルの踏み切りの練習をしていて、1回はダブルアクセルを跳んだ。
 気合が入りすぎているかもしれないと思ったが、本番ではジャンプの前にスピードが落ちてしまういつものパターンになってしまった。本人も跳びたかっただろうから残念。高いレベルが取れるスピンで2つミスをしてしまったのも残念だが、それでも崩れずに最後まで笑顔で演技をしたのはよかったと思う。

 会場で見ると、一度にいろんなものが見える。例えば、最終グループの6分間練習で、誰がどの順序で何を練習するかが全部見える。テレビではわからないものがわかる。

 朝の公式練習に行ったみずえさんの情報によると、キム・ヨナは絶好調で早めに練習を切り上げ、美姫ちゃんも好調だったのに対し、真央ちゃんとマイズナーは調子がいまひとつで最後まで練習をしていたということだった。
 6分間練習でも真央ちゃんの調子はいまひとつだった。前日と同じように、一度もコーチのもとには行かずジャンプを繰り返していたのだが、エミリー・ヒューズにぶつかりそうになったり、トリプルアクセルを跳ぼうとすると前にエミリー・ヒューズがいたりでなかなかうまく跳べなかった。昨日と同じパターン。
 なんとか一度は降りて練習を終わって欲しいと思っていたら、最後にようやくトリプルアクセルを降りた。美姫ちゃんは4回転サルコウを一度もやらなかった。キム・ヨナはルッツの着地でミスをしていた。

 世界選手権の最終グループでミスの無い演技をするのはとても難しいことだ。男子では、技を抜いてノーミスで演技をしたのがジュベールで、予定通りのプログラムでほんのちょっとだけミスをしたのが高橋選手。あとの選手ははっきりとわかるミスをした。

 女子も同じだった。昨日あれだけ調子が良かったコストナーが最初のフリップで転倒、エミリー・ヒューズもフリップで転んでしまった。
 そしてキム・ヨナ。彼女の3フリップ+3トゥループは幅があって本当に素晴らしい。昨日も今日も、最初のフリップを降りた時点で次のトゥループが確実に決まるのがわかるぐらい、流れとスピードを保ったまま跳ぶ。全てのジャッジがプラスの評価をして、基礎点9.5に2点がプラスされた。

 彼女の弱点はループジャンプだ。昔から苦手なのでプログラムに入っていない。その分後半に難しい3ルッツを2度入れて高得点を狙っているのだが、今日は2つとも転倒してしまった。2つ目のルッツは、起き上がったあと1トゥループをくっつけたが、つけてもつけなくても同じトリプルの2つ目はジャンプシークエンスと判定される。よって次の3サルコウ+2トゥループは4つ目のコンビネーションとなって、織田選手と同じくカウントされなかった。

 会場のお客さんがすばらしいな、と思ったのは、昨日も今日も、真央ちゃんのライバルであるキム・ヨナ選手に温かい拍手をおくったことだ。特にショートはスタンディングオベイションであった。真央ちゃんの軽さとはまた違う、音のしない伸びるスケーティングはすごかった。

 直前のキム・ヨナの演技がベストではなかったことに、次に滑る真央ちゃんは気づいていたと思う。キム・ヨナの点数が出るまでの間、何度も何度もトリプルアクセルに入る前のステップを練習していた。これを跳ばなければ勝てないと考えているのが痛いほどわかった。

 その最初のトリプルアクセル。いつもよりもスピードが無かったが、踏み切りのタイミングはジャストで、跳んだ瞬間「降りる!」と思った。実際には軽くフリーレッグが氷に着いてしまったが、昨日の結果と今日の状況を考えると、降りただけでも大変なことだ。しかし次の2アクセル+3トゥループ、2つ目が回転不足になってしまった。
 次は昨日失敗した3フリップ+3ループ。6分間練習で降りてはいたが決して調子は良くなかった。祈るような思いで「跳べ!」と願ったら見事に降りた。

 家に帰ってテレビで見たら、このあとで笑顔が出ていた。心配していた2つのジャンプが終わったからほっとしたのだろう。とはいえ、全体的にいつもの彼女よりはスピードが無かった。当たり前だが決して平常心で滑ってはいなかったということだ。結果的に、本来レベル4が取れるはずのスパイラルやスピンでレベルを下げてしまった。それらが決まっていたら優勝できただろうが、真央ちゃんが置かれていた状況下で、これだけの演技ができる選手が他にいるだろうか。いくら真央ちゃんでもこれが精一杯だったのだ。

 真央ちゃんが2位以上を確定した状態で、最終滑走の美姫ちゃんの演技が始まった。4回転サルコウはやらなかったが、やらなくて良かったと思う。練習で降りるのと、試合の中で降りるのとは違う。
 美姫ちゃんもいつもの滑りではなかった。スピードを押さえて慎重にジャンプを跳んでいたので、いつもよりも着地が不安定だったし、肩を痛めていたのでビールマンの姿勢がとれず、スピンのレベルを下げざるを得なかった。それでもミス無く全部決めたのは素晴らしいことであった。

 どっちが勝ってもおかしくないし、どっちでもいいと思ったが、結果はわずか0.64の差で美姫ちゃんの優勝であった。さっきも書いたが、真央ちゃんのジャンプの着地が決まっていたり、スピンのレベルが上がっていたら真央ちゃんが上だった。これが試合だ。

 これからのことを考えると、これはとてもいい結果ではないか。美姫ちゃんは、頑張れば報われるという経験ができた。ショートとフリー、どちらもミスをしなかったのは美姫ちゃんだけだった。だから優勝できたのだ。この経験が、彼女をバンクーバーまで引っ張っていくだろう。頑張れば報われることを知ったのだから。

 真央ちゃんはショートでミスをしたから負けた。いくらフリーで頑張っても、挽回できないこともあることを、今回思い知ったと思う。そして負けた相手はキム・ヨナではなく日本の美姫ちゃんだったことも良かった。真央ちゃんは美姫ちゃんに負けるとは思っていなかっただろう。ライバルはユナ・キムだけではないのだ。

 表彰台の3人を見ながら、バンクーバーまでこの3人が、勝ったり負けたりしながらスケート界を引っ張っていくのだなと考えていた。すばらしい才能が、地球上の小さな円の中に集まっている。とりわけ名古屋に集中しているが。

 ただ、世界のスケート界のことを考えると、アメリカの選手に頑張ってもらわなければならない。表彰台をアジア勢が独占している状態では、アメリカのテレビの三大ネットワークは決して世界選手権の放映権を買わないだろうし、世界中の選手やプロが集まっているアメリカのスケート人気も落ちてしまうから。
 今シーズンの世界ジュニアでは、アメリカの選手が表彰台を独占したが、優勝したのが中国系のキャロライン・ザン。2位は両親ともに日本人の長洲未来で、長洲選手は全米ジュニアでは優勝している。どちらも柔軟性にすぐれていて、そしてどちらもアジア系。バンクーバーまでには3人のライバルになるだろう。個人的には長洲選手の方がスケートが伸びやかで好きだけど。

 しかしこの4日間、幸せだったけれどとても疲れた。座って観ているだけなんだけど、当分何もしたくないぐらい疲れた。実際台所には洗い物が溜まっているし、洗濯物も溜まっているし、メールの返事も書いていない。これでは社会人失格。

 放送ではわからないこぼれ話も書こうと思っているがしばしお待ちを。

« ただひとりあの人だけが | トップページ | キャンベル »

2018年10月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
無料ブログはココログ