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スケート選手と振付師の相性

 オロナミンCのCMはすばらしいと思う。高橋選手を起用したことと、その高橋選手に何をさせるかというところが、本人の資質に見事にはまっている。

 スケート選手だったら誰でもいいというものでもない。高橋選手って、外回りに行ってきてと言われて本当に外で回ってきそうな感じがある。これはバカにして言ってるんじゃなくて、そういうシチュエーションがはまる雰囲気を持っているということだ。これが織田選手だと、外回りと言われて外に出てリンクがあったとしても「これで回って帰ったらベタやな」とか言いそう。
 あと、脱いだ上着の下のシャツにふりふりのフリルがついていて、普通はヘンなのだが高橋選手だと何の違和感も無いどころかピッタリ。

 真央ちゃんもいくつかCMに出ているが、ほとんどはアスリートがCMに出ました、という程度のものだ。「伊藤ハム、大好き」って言うやつとか。ただ、ネピアの「ふわふわマオマオ」はかわいかった。最近放送されなくなってしまったが、今どきあんなにふわふわが似合う人はいない。

 「ふわふわマオマオ」は、真央ちゃんが持っている天性の雰囲気でCMを作った。ピッタリとはまっているが、真央ちゃんはそれほど演技をしていない(ネピアのHPのメイキングでも「演技はまだまだ」と自分で言っている)。「オロナミンC」は、ちゃんとした台本とカット割りがあって、高橋選手はそれに沿って演技をしていて、それがものすごくはまっている。この、演技に入り込めるというところが高橋選手の才能だ。

 前置きが長くなったが、ニコライ・モロゾフという振付師と高橋大輔という選手はとても相性がいいと思っている。モロゾフの振付けはとてもドラマティックだが、高橋選手はその世界にすーっと入っていける。顔の前で手を動かす、モロゾフ独特の振りが随所に出てくるのだけれど、そのときの高橋選手の顔はちゃんと気持ちが入っているのだ。もちろん顔だけじゃなく、アイスダンスの選手であったモロゾフが組み立てる高度なステップをこなせるスケーティング技術も持っている。モロゾフがやらせたいことと、高橋選手がやりたいことがピッタリと合っているんだと思う。

 今回、モロゾフがコーチを担当した高橋選手が銀、安藤選手が金という素晴らしい結果になったわけだが、じゃあみんながモロゾフコーチにお願いすればいいというわけでもない。
 キミー・マイズナーのショートはモロゾフの振付けだった。とてもドラマティックで悲しげな音楽で、演技の最初やストレートラインのステップの後半に、やはり顔の前に手を持ってくる動きがある。でも彼女がもともと持っている雰囲気はとても素朴なので、曲とも振付けとも合っていなかった。言い換えれば、キミーはモロゾフの世界を表現しきれていないということ。

 sports@niftyの記事に、美姫ちゃんのこんな言葉があった。「大ちゃんがいつも滑ってるような音楽が好き、ってニコライに言ったんです。そうしたら音楽だけじゃなくて、ステップまで大ちゃんみたいな雰囲気の、難しいものになっちゃった。えー、こんなのできない。どうしよーって(笑)」
 美姫ちゃんは、ずっと自分なりの表現をしたいと考えていたのだろうけれど、今までコーチを変えてもなかなかピッタリなものに出会えなかったのだと思う。モロゾフと出会って、やっと自分が迷いなく滑れる作品をもらえた。とはいえ、昔からモロゾフの作品が合う選手だったわけではない。スケーターとしていろんな経験をしたからこそ、今シーズンモロゾフの作品が滑れるようになったのだろう。

 織田選手は世界選手権に向けて曲を変えたが、残念ながら滑り込めていなかった。振付け通りに滑るので精一杯だったと思う。荒川さんがトリノ五輪の直前に曲を変えてうまくいったのは、かつて2度フリーで使っているトゥーランドットだからであって、やはり曲を表現するには時間がかかる。
 来シーズン、織田選手はどんな曲でどんな表現をするか、本人も周りも悩むのではないか。高橋先輩が自分の世界を作り上げてしまったから、それとは違うものをやらなければならない。でも、バンクーバーまでにはまだ時間があるから、あれこれ試してみていいと思う。例えばコーチを変えて、お母さんから離れてみるのも一つの方法だ。離れてみて、やっぱりお母さんが良ければ、また戻ればいい。他のコーチと違って、お母さんだから何があったって受け入れてくれる。

 キム・ヨナはすでに自分の世界を持っている。16歳であの雰囲気が出せる。ただ、普段の彼女を見るとわかるのだが、元から妖艶なわけではない。ジュニアの頃から、世界で戦うために演技力を高めてきてこうなったのだと思う。
 彼女を見ているとミシェル・クワンを思い出す。ショートの途中で見せるジャッジを見据えるような鋭い目つきはクワンにそっくりだ。クワンが妖艶なメイクで「サロメ」を演じて世界選手権で優勝したのは15歳のとき。以来5回世界チャンピオンになっているが、五輪の金メダルはとうとう取れなかった。そして演技の印象も、私にとっては最初のサロメから抜け出ることはなかった。素晴らしい選手であることに疑いは無い。でも、いつも良くも悪くもクワンという感じだった。最初にイメージを作ってしまったからだと思う。
 今後キム・ヨナがどういうスケーターになるのか。お母さんがかなりのステージママのようだが、毎年の試合の結果だけを追いかけていたらいずれ本人が苦しくなるんじゃないかと勝手に心配している。そういえばクワンも結局、ずっと教わっていたフランク・キャロルコーチのもとを離れたっけ。

 真央ちゃんについては、振付師やコーチが、何をさせようか悩んでいるんじゃないだろうか。スケーターとして必要なものを全て持っていて、でもまだまだ伸びる余地がある。世界中のどのコーチも振付師も、これだけの選手を教えたことは無いだろう。
 どうなるのかわからない。それが「可能性」というものだ。私は今回の世界選手権で、浅田真央という選手の底力に感服した。あの人は並じゃない。そんなことはずっと前からわかっていたけれど、私が思っている以上にものすごい人だ。将来どんなスケーターになるのか全然見えない。わからない。それが楽しみで仕方が無い。

 世界選手権のウラ話を書くつもりが、なんだかこんな話になってしまったが、生で見ていたらこんなことを思ったということですいません。全部私の感想であって、本人やコーチや振付師に取材したわけじゃありません。

 まぁスケートファンってこんな感じですわな。女子フリーの日の開場前、近くでお茶をしていたら、隣に座っていた若い女の子2人が「美姫ちゃん4回転やるかなー」「アタシの予想ではー、たぶんモロゾフがやらせないんじゃないかなー、戦略として」といった話をしていて、心の中で「友達か!」と突っ込んでいたが、私もたいして変わらない。横にタカアンドトシのトシがいたら「コーチか!」とか「スケート連盟か!」って突っ込まれそうな。

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