世界フィギュア男子フリー
きょうは試合の帰りに軽く飲んでしまった。勝利の美酒に酔ってしまったので長々書かないようにするつもりだがどうだか。
家に帰ってきて録画を見ながら、ああテレビではやっぱりいろんなことの半分しか伝わっていないなぁと思った。きょうの高橋選手がどれだけ素晴らしかったか、テレビでも十分伝わっていると思うけれど、それでも半分なのだ。
男子フリー。第3グループの最終演技のベルナルが、4回転を2度決めてものすごい得点を出した。得点が出ただけじゃなく、私達観客も興奮した。得点が出るまでの間、最終グループで滑る6人はリンクサイドにいた。おそらく最終グループの全員が、ベルナルがものすごいことをやり、すごい得点を得たとわかった状態で6分間練習に入った。6人全員、気合いの入った練習をし、見た目にはみんな調子が良さそうだった。ランビエールだけが本調子ではない感じ。
第一滑走は前日5位、アメリカのライザチェック。ベルナルの得点を見て、4回転を決めない限り上には行けないと考えたと思う。結果、練習では正確に降りていた4回転もトリプルアクセルも、本番ではひざが固くてオーバーターンしてしまった。とはいっても転んではいない。悪くはない演技だった。
ライザチェックの得点と順位を聞いて次に滑ったのは、同じアメリカのジョニー・ウィア。全米選手権ではライザチェックに負けている。彼は4回転を確実には跳べない。ライザチェックの得点はそれほど悪くはなかったが、順位は2位だった。ということは、ウィアは完璧な演技をしない限り、それより上には行けないことになる。
最初のトリプルアクセル+トリプルトゥループのコンビネーションをきれいに決めたあと、次の4回転は3回転になった。それでもう一つのトリプルアクセルを決めなければと思ったせいか、結果的には他のジャンプもミスしてしまった。
第三滑走は現チャンピオンのステファン・ランビエール。昨日ミスがあったし、きょうも決して調子が良かったわけではないが、昨日失敗したトリプルアクセルをなんとか降り、4回転トゥループも降りた。でも、今日のランビエールが素晴らしかったのは、ジャンプの不調をカバーするほどにフラメンコの世界を表現していたところだった。スピンも素晴らしかった。スピンで歓声が沸いたのは彼だけだ。
テレビだと切り取ってしまうので全体の世界がわからないが、その場で見ていると、選手と音楽が一体になってひとつの空気を作るのがわかるし、その空気に観客が取り込まれていった。勝つための演技ではなく、自分の世界を表現した演技だった。ランビエールにはジャンプのミスがあった。でも観客はスタンディングオベイションをした。心が動いたからだ。
第四滑走はショート1位のブライアン・ジュベール。練習から好調だったが、おそらく直前のランビエールの得点を見たからだろうか、内容を減らして4回転を一度しかやらなかった。ロシア大会では4回転を3度成功して優勝し、氷にキスをした。ミスは無かったが、お客さんはそれほど立たなかった。彼ならもっとできる。全力を尽くさなかったからそれほど感動しなかったのだ。とはいえ、2日間ミスを出さず演技をしたのは素晴らしいことだ。
そして高橋選手。6分間練習では全てのジャンプを順番に決めて、とてもいい状態でリンクから上がったが、他の選手も決して調子は悪くなかった。世界選手権の最終グループでミス無く滑るのがどれだけ大変なことか、観客はわかっていたと思う。
最初の4回転に入る前、スピードが少し足りなかったので心配したが、やはり一瞬手を着いてしまった。でもそこから落ち着いて全ての要素をちゃんと決めた。日本の選手だからというだけでなく、場内が段々と盛り上がっていった。2つ目のアクセルを決めたあとは、ジャンプを失敗する気がしなかった。させないぐらいに作品の世界の中で滑っていた。フリーは1位だったが、それに値する演技だったと思う。
場内大盛り上がりの中、最終滑走はジェフリー・バトル。高橋選手の演技の点数や場内の歓声から、4回転を跳ばないと勝てないと考えただろう。もともと得意ではない4回転で転び、昨日鮮やかに決めたトリプルアクセルでも転倒してしまった。
TOKIOの松岡さんが「順番って残酷ですね」と言っていたが、まったくそうだ。高橋選手の前がジュベールじゃなかったら、バトルの前が高橋選手じゃなかったら、結果は変わっていたかもしれない。
付け加えておきたい。きょう、織田選手はとても頑張った。初めて見るプログラムなのでドキドキしながら見ていたが、3アクセル+3トゥループ+3ループのコンビネーションのあと、3サルコウ+2トゥループという、どうってことのないコンビネーションを跳んだので、コンビネーションの無駄遣いじゃないかなと思った。2つめの3アクセルを、2アクセル+3トゥループに変えたところで、まだルッツ跳んでないなと思った。そして次に跳んだのは3ルッツ+2トゥループであった。
コンビネーションジャンプは3つまでと決められている。結局、最後の難しいコンビネーションがノーカウントになってしまった。
これはとてももったいないことであった。おそらくは来年の出場枠を確保するために冒険をせず、できるだけ得点を取ろうと演技中頑張ってこうなったのだ。織田選手は過去こういう失敗を何度かしているので、本当はしない方がいい。でも最終順位は7位だから、14位から7つ上げたことになる。本人は不本意だろうが頑張ったと思う。そして日本は来年3枠を確保した。
私の席のちょっと前に小塚選手とその関係者らしき人が座っていた。最終順位が出たあと、周りの人が小塚選手になにかと話しかけていた。おそらくは「来年は3人出られるよ」というようなことを話していたのだと思う。私だって、目の前の小塚選手を見ながら、なんとか3枠取って欲しくて、織田選手の演技のあと「高橋くんが3位としてもあと3人抜かなきゃ」と思いながら他の選手の演技を見ていたのだ。とはいっても失敗してくれというのではなく、全員が全力を尽くした上でそうなってくれたらと思っていた。そしてそうなった。良かったなぁ。
高橋選手が銀メダルを獲得したことは大変なことで、ものすごく嬉しい。それでふと思ったのだが、真央ちゃんは世界選手権初出場なのに、周りだけじゃなく誰より本人が金メダルを取る気でいる。それはとんでもないことなのだが、誰もとんでもないことだと思っていない。すごいことだ。
私は今大会で真央ちゃんが金を取らなくても別にいいと思っている。初めてなんだから。でも、本人が本気で、いつも通りやれれば金だと思っていて、それが事実だからすごい。きょう会場で、伊藤みどりさんが国際スケート連盟の世界殿堂入りの表彰を受けたのだけれど、その人に匹敵するものすごい才能を明日から見ることができるのだ。すごいすごいと連発しているけれど、本当にすごいんだもん。ああ楽しみ。
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