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医療は大変なことになっている

 「Tokyoほっと情報 都議会トピックス」のロケで都立大塚病院へ。長くなるような気がするが、地方に住んでいる方、女性、高齢の両親がいる方、病気をしたことがある方や病気の家族を抱えている方はぜひ最後までお読みください。

 この番組はいくつかの取材を複数のリポーターが担当するが、私以外は全員女性ということもあって、私には固めの内容の依頼が多い。今回は当初築地市場の取材と聞いていたのだが、結局大塚病院で、医大を卒業した研修医の一般病院での研修を取材することになった。自分で言うのもなんだが、他の人じゃなく自分で良かったと思う。現場の医師の方に聞いてみたいことがいろいろあったから。

 大塚病院は、重点医療として母子医療や膠原病系難病医療、リハビリテーション医療などを掲げている珍しい病院だ。珍しいというのは、これらの診療科が現在の診療報酬制度では儲からない科ばかりだから。お金のある東京都だからできることだ。

 まずNICU(新生児集中治療室)を見せていただいた。1000g未満の体重で産まれた赤ちゃんや、病気を抱えて産まれてきた赤ちゃんが治療を受ける。12ある保育器は満床で、中には500gほどという、私の手のひらに乗るような小さな赤ちゃんがいた。
 こんなに小さな命を生かすことができることに驚いたが、命を生かすための手厚い医療が行われていることにも驚いた。看護スタッフが通常の病棟よりずっと多いのだが、それはここにいる赤ちゃんたちが、何か異常があったとしても声をあげることができないからだ。とにかく、24時間常に見ていなければならない。
 このNICUに加えて、比較的軽症あるいは急性期(危険な状態)を脱した赤ちゃんが収容されるGCUが28床。合わせて40床に7名の医師と50人余りの看護スタッフがいる。医師の定員は国や都の基準で決まっているが、こないだまでは6人で回していたそうだ。

 病院の外でリポートを録っていたら救急車がやってきた。埼玉県三郷市の救急車であった。切迫早産などの危険な出産が予想される場合、母体搬送といって、出産の前にお母さんを入院させ、設備の整った病院で出産をするケースが増えた。これだけの設備と人材がいる病院で出産するからこそ、500gの赤ちゃんの命が助かるわけだが、そういう施設は他県には少なく、また空きが無いから東京まで搬送されてくる。

 このブログを読んでいる女性で、地方に住んでいる方は、もし自分が入院して切迫早産になった場合、子供は助からないケースが多いと思っていただきたい。そしてそれは医師の力量の問題ではないことも承知していただきたい。

 日本の新生児死亡率の低さは世界でもトップクラスだ。ただそれには地域差がある。出産に関して、日本のどこでも同じレベルの医療が受けられると思っていたらそれは間違いだ。日本という国としてはそんな医療をまったくやっていないし、むしろ均等な医療の機会を減らそうとしている。

 都立病院は都民のための病院なので、医師や看護スタッフの配置や病床数は都民が基準になるが、他県の患者でもベッドに空きがあれば受け入れる。病院は対応できる限りは患者を断ることはできない。埼玉や神奈川どころか群馬からも患者を受け入れたこともあるそうだ。
 都民を基準にしていながら、実際には他県からも患者を受け入れるのだから、ベッドに空きが無いのは当然だと思う。実際取材をした日もNICUは満床だった。都内のNICUは受け入れの可否がわかるようネットワークを組んでいて、パソコンの画面でどの病院に空きがあるかわかるようになっているのだが、×が並ぶ日も多いそうだ。

 以前、奈良で妊婦が19もの病院をたらい回しにされた挙句亡くなったことを書いた。これは結局立件されなかったのだが、最初に入院していた町立大淀病院は、医師の退職により産婦人科を休止する事態に陥った。ただでさえ産科が少ない奈良県で、また一つ分娩できる病院が減ってしまった。
 それに比べれば東京は恵まれているが、その東京でも、どの病院も受け入れられないという日は普通にある。受け入れないのは病院の怠慢だと思ってはいけない。ベッドが無いのに患者は受け入れられない。ましてやNICUでは、呼吸をさせる機械の数以上に受け入れることなど意味が無い。産まれてきた赤ちゃんに呼吸をさせられないからだ。

 続いてリハビリテーション室を撮影した。ここは部屋を撮影するだけで、インタビューやリポートは無かったのだが、現場にいた医師の方に個人的に話を聞いた。聞いてみたいことがあったのだ。

 去年4月の診療報酬の改定で、医療機関で行うリハビリには、脳血管疾患(脳卒中)、運動器、呼吸器、心血管疾患など疾患別に90~180日の日数制限が設けられた。これは小泉前総理が言った「痛みを伴う改革」の中にあった「医療費抑制」のために行われた。

 どこの誰でも、年齢に関わらず倒れ、以前できていたことができなくなる可能性がある。あなたの身にも私の身にも起こり得るし、あなたや私の親にはいつ起こっても不思議は無い。
 動けないままでは退院できない、というよりも生活ができない。だからリハビリが必要なのだが、それを日数で区切ってしまうという制度を、厚生労働省は患者の声も聞かず一方的に導入した。

 医療保険のリハビリが終わったあとは、介護保険のリハビリをやってくださいね、というのが厚生労働省の案であったが、現場の医師の方が言うには「医療のリハビリと介護のリハビリは全然違うんです」ということであった。
 病院のリハビリは、その人が退院しても生活していけるよう、単純な機能回復ではなく日常生活を考えたリハビリメニューを組む。都立大塚病院のリハビリテーション科には「日常生活活動室」というものがあり、病院のリハビリの中で日常生活のための訓練ができる。
 介護のリハビリはそこまできめ細かくないし、指導できる人の数も不足している。あと、介護保険を受ける年齢に達していない人は、リハビリの場所が無くなってしまった。大体にして、病院でリハビリを受けられなくなった人をどれだけ介護施設が受け入れられるかすら考慮されていなかった。

 あまりにひずみが出たので、厚労省はこの4月に日数制限を一部見直した。たったの1年で見直すことになったのは、厚労省の調査で、リハビリが必要なのに途中で打ち切られる患者が全体の1割もいたからだ。1割と聞くと少ないようだがこれはものすごい数だし、厚労省の調査だから実際にはもっと多いはずだ。そして見直しはあくまでも一部だ。「改善の見込みがある」ことが前提となっていて、一部の病気を除いて「維持する」ことは考慮されていない。維持しなければ動けなくなるのに。

 「もうちょっと続けて見られたらできることがあるのに、と思うんですけどね」と、その医師の方は残念そうに言っていた。現場でリハビリをやっている人にとって、診療の打ち切りというのは「半年頑張ってダメだったから家で寝たきりになってくださいね」と宣告するようなものだ。そりゃあ無念だろう。

 まだ書きたいことはあるが、長くなったのでまた今度にする。再度繰り返すが、医療制度の崩壊が進む原因を作ったのは小泉政権で、現在の安倍政権はそれをそっくりそのまま引き継いでいる。やりたいことは憲法を改正して自衛隊を海外に派遣して国際的な評価を得ることと(それが本当に国際的な評価に繋がるのか知らないが)出口の見えない教育改革。医療制度のことなどまるで考えていないがしょうがないだろう。若くしてすんなり総理大臣になっちゃったし、医療のことなど興味が無いだろうし。

 最初に「地方に住んでいる方、女性、高齢の両親がいる方、病気をしたことがある方や病気の家族を抱えている方はぜひ最後までお読みください」と書いた。最後までお読みいただけただろうか。私は地方に高齢の両親があり、何度も病気をしているので、とてもじゃないがこの政権は支持できない。じゃあ他のどの政党と言われても答えられないが、とりあえずこの夏の参院選で自民党が大勝なんていうのはぞっとする。他の党が政権を取らなくてもいいけれど、調子に乗らないようにお灸を据える意味でも、大勝っていうのはカンベンなのだ。

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