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20年ぶりに

 私は18歳で国立国会図書館の職員になった。国会の職員なので国家公務員特別職ということになる。ちなみに総理大臣も国家公務員特別職。

 最初に配属されたのは会計課。数学が苦手で図書館に就職したのに会計課というのは結構ショックだったが、行ってみたら先輩が愉快な人ばかりで楽しかった。夜は大学に通っていたこともあり、朝はギリギリに出勤して夕方はぱーっと帰るという、今になって思えばダメダメな職員だったが、同じようにして大学を卒業した先輩や通っている先輩がいたので何も言われなかった。

 退職してからも数年に一度は図書館に顔を出していたのだが、職員は定期的に人事異動があるので、もう誰がどこにいるんだかわからなくなってしまった。あと、当時お世話になった方の多くがすでに退職している。そんなこともあって、最近は足が遠のいていた。赤坂のTBSにはしょっちゅう行くから、図書館はすぐそばなのに。

 同期で、一緒に会計課に配属された綾ちゃんから「もうすぐダンナの育児休暇が終わるので、近々飲みませんか」というお誘いのメールが届いた。綾ちゃんのダンナさんも図書館の職員なので、育児休暇は両方が取れる。つまり、ダンナさんが子供の面倒を見てくれているうちしか、夜に人と会ったりはできないわけだ。

 他に誰を誘うかは綾ちゃんに任せたのだが、行ってみたら当時の会計課で仲が良かった人たちが集まっていた。またこんなメンバーで集まれるなんて、と思ったのは私だけではなくみんなもそうだった。異動してもそれぞれに顔は合わせるので、過去の部署のメンバーが集まることなど無い。

 それにしても。私がこの人たちと出会ったときは18歳で、今の私は38歳なのだ。もう20年も経ったなんて。そして久しぶりに会って思った。みんな見た目は多少変わっているが、昔のまんまであった。変わってしまう人もいるが、見事なくらいに昔のままで、そういう人ばかりだったから会計課は楽しかったのだと改めて思った。18歳ではこんなことはわからない。
 「それにしても皆さん変わらないですねぇ」と言ったら「今泉くんがいちばん変わらないよ」と言われた。もちろんそんなことはなく、顔も体も劣化しているのは私がよく承知しているが、やっぱり私も変わっていないのだろう。

 ずいぶん久しぶりに会ったのに、20年前のことを昨日のことのように話せるのに驚いた。そして本当に楽しかった。私にとって図書館での4年間はとても大切な時間だったと改めて思う。高校を出てすぐに働いたことは苦労でもなんでもなく素敵な経験だったと、20年経って心の底から思えるのは幸せなことだ。

 誰だって、社会に出て、こんなはずじゃなかったと思うことは多かれ少なかれあるだろう。私は公務員になりたいわけでも会計課で働きたいわけでもなかった。本当はクラスのみんなと同じく普通に大学に進学したかった。アナウンサー受験をしているとき、面接で落ちるたびに「もし普通に進学していたら」と考えたりした。そんなことを言っても仕方無いというのは百も承知なのに。

 それもこれもすべて自分の人生であり、自分の人生に起こった出来事や出会った人々は、他の誰でもない自分の宝であり財産だと、やっと迷い無く思えるようになった。他人の人生と自分の人生を比べなくなった。
 18歳の私と38歳の私は本質的にはきっと変わっていないのだろうが、変わったところは確実にある。それでも久しぶりに会った人に「変わってないねぇ」と言われるのは、今の私が過去の私を否定していないからかな。今、そういう心境でいられて良かった。過去とか親とかを恨んで生きる人生って辛いもの。

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