中京大学エキジビション
伊藤みどりさんが女子史上初のトリプルアクセルを決めて、日本人として初めて世界選手権で優勝したときの演技は、決して優雅なものではなかった。しかし翌シーズン最初の試合のNHK杯で見せた演技は、いったい何があったのかと思ったほどに変わっていた。高いジャンプはそのままだが、動きや滑りがとても優雅になった。技術点だけではなく芸術点でも6点満点を出したジャッジがいたほどだ。
これがチャンピオンになるということ。技術が急に伸びたわけでもないのに演技が変わる。チャンピオンの演技になるのだ。
世界選手権からまだ2か月も経っていないが、安藤美姫ちゃんはすっかり女王のたたずまいを見せていた。世界選手権では「女性らしさ」を意識したそうだが、もう意識しなくてもすっかり女性らしい演技ができるようになった。
演技だけではない。記者会見でのコメントが大人になった。もう自分のことを「美姫は」とは言わないし、何を聞かれても丁寧に答えていた。後ろに並んだ中京大学の他の選手たちを気遣う発言まであり、私は親でもないのに「大人になったなぁ」と感心していた。
真央ちゃんはいつもの真央ちゃんであった。初めて記者会見に出たが、真央ちゃんを見ているとつい笑ってしまう。
今シーズンのフリーの演技について聞かれると「えーっと、えー、うーんと」と、首をかしげて目をキョロキョロさせてなかなか答えなかった。まだシーズンも始まっていないし、どこまで答えるのか悩んでいるのかと思ったら「えっと、作曲家の名前を言おうとしてるんですけど、あのー、忘れました」と言うので取材陣一同笑ってしまった。かわいい。
かわいいといえば、2つめのエキジビションプログラム「ハバネラ」のときに、紹介されて氷に出て滑り出したとたん「あ!」という顔をして「忘れたー! 忘れた!」としきりに言っていた(私の目の前で言っていたので聞こえた)。何を忘れたんだろうと思ったら、最初の「オズの魔法使い」を滑ったあと他の選手の演技を見ていたら、最初の演技でつけた頭のリボンを取るのを忘れたということであった。かわいい。
天真爛漫とはこの人のためにある言葉ではないか。演技を見るだけでそうなのだけれど、きっと会ったらみんな真央ちゃんのことを好きになる。観客だけじゃないく、スケート関係者もジャッジも報道陣も彼女が好きになるような、そういう光がある。
真央ちゃんがこれから先、世界チャンピオンになるのかならないのか、バンクーバー五輪で金メダルをとるのかとらないのかそれはわからない。私にわかるのは、スケート至上まれにみる光を放つ選手が、今こうして日本にいるということだけ。それをこうして生で見られるとはなんと幸せなことか。
そしてこのエキジビションに来てよかったなぁと思ったのは、曽根美樹さんの演技が見られたことだ。曽根選手はいつも独特の個性のある演技をする選手で、全日本で見るのを楽しみにしているのだけれど、今回のエキジビションは着物(おばあちゃんの着物を仕立て直したそうだ)を着てしずしずと登場したので何をするのかと思ったら「曲は、大奥」というアナウンスで場内笑いとどよめき。
そしてあのドラマの大奥の曲で、情念の女という演技を披露して場内大喝采であった。一緒に見ていたマガジンハウスの方が「大奥っていうより吉原炎上の西川峰子みたいな」と言っていたが気持ちはわかった。すごい情念だったもの。
でも好きだなー。何より自分が好きでやっているというのがすばらしい。
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