いろいろなことがあった日
6年間やってきた、こども放送局「チャレンジ教室」が、この日で最終回を迎えた。文部科学省の専用衛星回線を通じて全国の児童館や公民館などにむけて放送してきたのだが、衛星が耐用年数を超えるため、来年度からはインターネット放送になるのだそうだ。
地上波のテレビでは見られない番組だが、6年間手を抜かずにやってきたし、いつも生放送でいろんなことが起こって、それを放送中になんとか乗り越えてきたから、ものすごく愛着があった。ただ1月から「レディス4」が始まったので、以前は午後に行っていた金曜のリハーサルをお昼までに終わらせてもらわなければならず、スタッフの皆さんには迷惑をかけていた。いろんな意味で節目だったのだと思う。
最後のオンエアは、子どもたちが大きなシャボン玉を作るという内容。3年生の男の子が3人いて、途中からもうコントロール不能という状態になったが、みんな本当に楽しそうだったので一緒に楽しんでしまった。最終回らしくて良かったと思う。
夕方からはみずえさんのバレエの発表会。みかちゃんとまみさんと待ち合わせをして板橋文化会館に向かった。ちょうど2年前、私もこのステージに立っていた。そして完全に燃え尽きてやめてしまったが、みずえさんはそこから真面目に続けて、今回は「ボレロ」でセンターパートを踊っていた。「ジゼル」ではポワントも履いていたし、頑張ったんだなーというのがよくわかった。
見ていたらまたやりたくなったりするかと思ったが、ちっともそんな気がおきなかった。やはり私には、もう白いタイツを履いたりすごいバレエメイクをする気はちっとも無いんだな。
会場を出て携帯の電源を入れたら、大学時代のサークルの仲間から留守電にメッセージが入っていた。折り返しかけたら「ごめんね、いい話じゃないんだけど」という言葉のあとに「昨日ひで坊が亡くなったの」と言われた。接待先で倒れて病院に運ばれて、そのまま亡くなったのだという。
ひで坊というのはサークルの同学年の仲間だ。昔からお調子者でバカなことばかり言っていて、サークルの人気者だった。数年前から札幌で仕事をしていたのでなかなか会えなかったのだが、ひで坊が出張で東京に来るからと、久しぶりにサークルの仲間で集まったりした。そういう存在だった。
日曜はロケだし月曜は生放送だ。札幌でのお通夜にもお葬式にも行けないので、香典を立て替えてもらうことにして電話を切ったが、いま自分が耳にしたことも口にしたこともまったく実感が無かった。
バレエが終わったあとは池袋に移動し、タンちゃんも合流して、みんなが大絶賛している焼き鳥を食べることになっていた。予定通り移動し、焼き鳥を食べた。焼き鳥はすばらしくおいしかったしお酒もおいしかった。ひで坊が亡くなったことはみんなには関係が無いし、せっかくわざわざおいしいお店に行ったんだし、と最初は思っていたが、なんというか、無理に明るく振舞ったわけでもなく、普通においしくて楽しかった。
家に帰る電車の中で、ふと携帯電話のアドレス帳を開いた。ひで坊の番号もアドレスもある。ひで坊は亡くなったのだから、この番号にかけてもひで坊は出ないし、このアドレスにメールを出しても返事は来ない。頭で考えればそういうことなのだが、私には全然実感が無くて、ひで坊のアドレスを消そうとはちっとも思わなかった。かけても出ないんだな、と頭で考えてみただけ。
帰って弔電を打とうと思ったが、文面がまったく思いつかなかった。電話をくれた同級生は、こんなシャレにならない嘘をつくような人ではない。彼女が言うとおり、ひで坊は亡くなったのだろう。でもどうしても弔電が打てない。生きている人に弔電が打てないのと同じ。
ひで坊は亡くなってしまった。もう二度とひで坊には会えない。このことが、いずれじわじわと飲み込めてくるのだろうか。私は今、悲しくも寂しくもない。そのことがとても不思議。
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