鈴木明子選手のこと
ずっと書いていなかったので、もう読んでいる人もいないんじゃないかと思うが久々の更新。
鈴木明子選手のことを書いておこうと思った。それは鈴木選手のサイトの掲示板を読んだからだ。
全日本選手権の鈴木選手のフリーは本当に素晴らしかった。私は2階の記者席にいて、記事を書くつもりで(こちらに書いた)観ていたのでスタンディングオベーションはしなかったのだけれど、普通に観客席で観ていたら立ち上がって拍手をしたと思う。実際、たくさんの人が歓声をあげながら立って拍手をしていた。
尋常ではない空気を漂わせながら始まった直前の6分間練習で、村主選手と安藤選手がぶつかるというアクシデントが起こってしまい、場内は異様な緊張感に包まれていた。そんな中、結果的にジャンプのダウングレードはあったが、ノーミスの演技をした。この日一番の演技をしたのは、私は浅田選手でも村主選手でもなく、鈴木選手だと思っている。
演技後、フジテレビ→その他のテレビ局用→新聞や雑誌、という順にインタビューがある。最後の活字媒体向けのところは囲み取材といって、大勢の記者やライターが選手を囲んで取材をするのだが、それが終わったあと、取材を兼ねて観戦に来ていた中京テレビの本田アナが鈴木選手に「惜しかったねぇ」と話しかけていた。これは取材というよりは、以前にも取材をして知っているので個人的に話をしたということなのだが、私も以前「フィギュアスケートDays」で中庭選手との対談を取材したことがあるので、なんとなくその会話に加わった。
鈴木選手はフリーの演技には心から満足していたが、本当に僅差の4位で世界選手権の代表にはならず、その時点で四大陸に出られるかどうかもわからなかったので、ちょっと悔しそうだった。そりゃそうだろう。3位の安藤選手との差は本当にわずかで、ショートで何かひとつ要素をミスなくやっていたら逆転していただろうから。
私はこう言った。
「でもね、今日のフリーは本当に良かったから、あれで(世界選手権に)行けないんだったらしょうがない、って思ったよ」
嘘ではない。演技が終わったあと、私は隣にいたライターの青嶋さんに同じことを言った。それほど素晴らしい演技だったということだ。
それを聞いた鈴木選手はニッコリと笑い「そうですよね! よし、きょうはおいしいものを食べよう!」と言って控え室に戻っていった。
鈴木選手の強いところはこういうことだと思う。もちろん世界選手権には行きたいし五輪にも行きたい。でも、いちばん大事なのは、自分がやりたいスケートができるかどうかなのだ。そして、いま「自分がやりたいスケート」がこんなに魅力的な選手はいない。
試合後、他の取材スタッフと食事をしてホテルに戻る途中、たまたま打ち上げをやっていた店から出てきた鈴木選手にばったり会った。そのときには四大陸の代表になったことがわかっていたから「四大陸良かったね」と言った。
四大陸選手権はカナダのバンクーバーで開かれる。そう、バンクーバー五輪と同じ会場だ。世界選手権には出られなかったが、来年五輪が行われる会場でスケートを見てもらえる。
話が長くなったが、四大陸の代表になって本当に良かったと思っている。全日本選手権のエキジビションであるメダリスト・オン・アイスでの「リベルタンゴ」もまた素晴らしかったが、その演技が始まる前、まだ場内が暗いときから、次が鈴木明子だと知った観客が、明かりがついていない場内に大きな声援を送ったのだ。NHK杯と全日本で素晴らしい演技をしたことで、新しいファンが増えたんだなーと思った。
そしてきょう、鈴木選手のサイトの掲示板を見たら、性別も年代も問わず、私が思ったよりもずっとずっと多くの人が彼女の演技に惹かれ、わざわざ掲示板にメッセージを残していた。しかも多くの人が鈴木選手のことを知らずにテレビで観て、人によっては涙を流し、わざわざサイトを探してメッセージを書いていた。
たくさんの人の心を、自分のスケートで掴んだのだ。
鈴木選手は、きっとバンクーバーの観客の心も掴むと思う。日本に鈴木明子という選手がいることを知らしめると思う。いま、その舞台がどこであっても、滑ることに心から感謝して演技ができる世界レベルのスケーターなんて、鈴木選手しかいないのだから。
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