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2009年11月

産科を描いたひどいドラマ

 更新する気が失せていたブログを書こうと思ったのは、今見たドラマに腹が立って腹が立って仕方がなかったからだ。

 昔から使われている医療用語にはドイツ語がもとになっているものが多い。日本では近代医療の技術をドイツから学んだからだ。クランケ(患者)とかオーベン(指導医)とか。ギネはギネコロジー(ドイツ語だとガイネコロジー、というのが近いそうだけれど)の略で、産婦人科のことをいう。まぁ業界用語のようなものだ。

 出産は病気ではない。でも昔から、そして今でも、母親と子供の両方に生命の危険があり得る、まさに命をかける行為だ。誰の子供でも無事に産まれるだなんて幻想でしかない。そしてそのギネの現場は今大変なことになっている。訴訟を抱えることが多く、そのこともあってなり手が減り続けているのが産科だ。

 そういう現状を踏まえて「ギネ」と題するドラマを作ったのかと思っていたので、期待しつつ第1回を見たのだが、ドラマの冒頭の段階で、主人公の女医が帽子もマスクもしていないというあり得ない格好で手術室にいたので、ドラマについては期待するのをやめた。
 テレビドラマに出てくる医療行為は、実際の医療行為とはかなり違っている。病院じゃないんだから当たり前といえばそうだし、そのことにお金もかけられないし、そもそも大多数のドラマが伝えたいことは「正しい医療行為」ではないので、医療関係者はいちいち騒ぎ立てたりしない。私も「あぁ、たまたま病院が舞台だけれど、医療行為についてはこの程度のドラマなんだな」と思うことにしている。なので、冒頭のシーンだけで「産科の窮状について真面目に取り組むようなドラマではないんだな」と判断し、期待はしなかった。

 その後は、たまたま前の番組を見ていたので続きで見る、ぐらいで見ていたのだが、私が見ていなかった先週、子供は助かったが母親が亡くなった母体死の事例、それに伴う医療訴訟を取り上げたようだ。そしてきょうはリストカット歴のある少女に対するガンの告知ということが取り上げられていた。

 はっきり言いたい。個々の物事の捉え方が薄っぺらいので、医療現場に対する誤解を招くようなことばかりなのだ。

 予期せず妻を亡くした夫が、本人は真実を知りたいだけなのに、弁護士の戦略で雑誌の記事になり、本当のことを知りたくて担当医である主人公を訪ねる。たまたま高校だか大学だかの同級生が病院にいたので、そのつてで夫は病院外で担当医と会うことになる。夫は担当医を信頼していたので「この記事は真実か」と追究するが、担当医は「この件は忘れたい、私には待っている患者がいるから」と言ってその場を去っていく。

 なんじゃそりゃ。ふざけんな。そんな医師がいるかっつーの。

 ただでさえ疲れ切っている産科の現場の医師や看護師が、このドラマを見てどれだけ失望することか。医療現場に起こるセンセーショナルなことだけを取り上げて構成しているが、その取り上げ方が本当に薄っぺらい。ガッカリを通り越して怒りを覚える。

 「救命病棟24時」の爪の垢でも煎じて飲んでもらいたい。あのドラマは、災害時のトリアージ(患者に優先順位をつけること)を取り上げたり、最新シリーズでは正面切って医療崩壊を取り上げたりと、ちゃんと現在の医療現場を取材し、それに基づいてドラマを作っていた。ドラマの主題として医療現場を取り上げるなら、崩壊寸前の医療現場を追い詰めるようなドラマは作るべきではない。
 ちゃんとやれば人は見るのだ。実際「救命病棟24時」は、主演の江口洋介さんのバイク事故でスタートが遅れたにも関わらず、20%以上の視聴率を獲得していた。

 関係者はこんなブログなんか見ちゃいないだろうけれど、ドラマを見た人が検索して引っかかるかもしれないから一応書いておくことにした。あのドラマは現時点では、撮影現場の役者さんやスタッフの努力にも関わらず、内容が薄っぺらくて、結果として医療現場を追い詰める内容のドラマとしか言いようが無い。
 最終回に向けて何かがひっくり返るのかもしれない。でも、現実の医療の現場をちゃんと取材していれば「最終回でひっくり返す」という手法を医療のドラマに安易に持ち込むことがどんなに危険なことかわかったはずだ。それがわからないのならやらなければいい。

 あーもう本当に腹が立って呆れた。怒りのエネルギーでブログを書くだなんてやりたくないんだけど。

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