これからに向けて
順位はともかく、3人の選手が悔いの残らない演技をしてくれて、来年の世界選手権の出場枠を3つ取ってくれたらいいなと思っていた。その通りになったから、本当にいい締めくくりだった。
浅田選手は最後の試合で「鐘」を滑り切った。トリプルアクセルの回転不足はジャッジがスローで確認してわかる範囲のもので、だからこそ体勢を崩すことなくダブルトゥループが跳べた。ほぼノーミスと言っていい、すばらしい演技だった。
結果が優勝だからあえて報道では触れられてはいないが、フリーだけの得点ではキム・ヨナ選手が1位だった。トリプルサルコウで転び、ダブルアクセルがすっぽ抜けた演技が1位。
ここに現在のルールの問題が集約されている。おそらく、今回の試合で、浅田選手のフリーよりもキム選手のフリーが上だと思っているジャッジはいない。トータルの印象では間違いなく浅田選手が1位だ。以前の採点法なら何の問題も無いのだが、現在の、ひとつひとつの要素を細かく見て積み上げていく採点法だと、全体の印象と実際の得点に差が出てしまうことがある。
去年の今ごろ「キム・ヨナの得点が高すぎる」というメールをたくさんもらったが、去年の世界選手権も、こないだの五輪も、浅田選手がミスをしたので、得点はともかく順位には問題は無かった。浅田選手がミスをしている以上、何を言っても順位は変わらないし、過去の大会と得点を比べても意味が無い。五輪ごとに大きくルールが変わるので、それまでのシーズンはルールに対応するしかない。
この、ルールがずれているんじゃないかという問題は、同じジャッジが採点した同じ大会の内容で考えなければ意味が無いし、そのためには浅田選手がほぼ完ぺきな演技をしてくれないと、問題として取り上げづらい。浅田選手がルールの想定の範囲を超えてしまったから、それをやってくれないと矛盾点が浮かび上がらない。みんな感じているし、わかっているけれど、表向きにはそういうこと。
今シーズン見えたルールの問題点を挙げると、まずは女子のトリプルアクセルの基礎点のこと。男子の上位選手ではスタンダードになっているが、女子ではコンスタントに跳ぶのは浅田選手だけだ。でも基礎点は男子と同じ8.20。2トゥループとのコンビネーションでも9.50だ。一方、キム選手の3ルッツ+3トゥループの基礎点は10.00。
女子ではどちらのジャンプも、現時点で一人しかやっていない。どちらも難しいジャンプなのだから、基礎点は同じでなければおかしい、ということになる。これは来シーズンからのルールに反映されるかもしれない。
はっきりしたのは、ジャンプを降りてからの「流れ」には明らかに加点がつくということ。浅田選手に限らず日本の選手は、人の多いリンクで練習しているので、ジャンプについては「降りる」ことをメインに指導されてきたと思う。でも現在のルールでは、降りたあと流れる、というのが加点の要素になっている。
キム選手は全部のジャンプで降りたあとに「降りました」というポーズをしっかり取っている。別に彼女がずるいのではない。そういうルールだからちゃんと対応しているだけのこと。
今大会のフリーでは、キム選手は浅田選手よりもジャンプで加点を取ったが、ミスもしたので減点もされた。すべての要素でミスが少なかったので、技術点の合計では浅田選手が上だ。
でも演技構成点では明確に差がついた。構成点はスケーティング技術、要素のつなぎ、演技力、振付と演技構成、音楽の解釈の5つの観点で採点される。
キム選手は8.35、7.75、7.95、8.15、8.45で合計65.04。
浅田選手は8.25、7.40、7.95、7,55、7.90で合計62.48。
これは上下を抜いたジャッジの点数の平均で、技術ではなく印象の評価なので試合ごとにばらつきがある(だから世界最高得点とかには意味は無い)。でも、傾向は出ている。
スケーティング技術にはほぼ差は無い。要素のつなぎについては、浅田選手は最初にトリプルアクセルを2つ入れたことで、2つ目のアクセルを降りるまではほぼ助走だけになっているので高くは評価できない。
演技力は同点。ということは、浅田選手が今シーズン頑張った表現に対する努力は評価されている。
問題は残りの2つ。振付と演技構成、音楽の解釈という部分では、浅田選手は他の選手よりは高い評価をもらっているが、キム選手には及ばない。今シーズンの「鐘」というプログラムを、ジャッジは表現としてはあまり評価しなかったということ。浅田選手がやると決めてやり切ったことは大きな経験になったが、採点には結びつかなかった。
すごい演技だった。いま、誰があんなことをやれるというのか。表現として何かを感じたかというと、あまり感じなかった。でも、あの場所でやり切れる人なんていない。とっくにルールを超えている。そのくせ、できないこともまだまだある。
表現の採点のおかげで2位になった。こういうことを書くと「スポーツじゃないのか」という意見が出てくる。でも、この表現の採点があったからこそ、高橋選手は表彰台のいちばん上に立てた。短絡的にいい悪いを考えてもしょうがない。
ルールが新しくなってからまだ日が浅い。フィギュアスケートの採点は今も模索し続けている。そんな中、選手は頑張って対応するしかないのだ。
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